いつかの時の どこかの場所に アジサイの咲く地がありました
そこは 数え切れぬ程のアジサイが 身を寄せ合うようにして咲き 藍や紫 雨の匂い 木々のざわめき 陽の匂い それは穏やかな地でありました
アジサイの葉を這う ナメクジが言いました 「やあアジサイ今年も君のおかげで 雨がおいしいよ ありがとう」と
アジサイの群れに人が入ってきました その人は言いました 「なんてきれいな花なんだ ここで死ねるなら本望だ」と
アジサイをじっと見つめて 小さな子供が言いました 「アジサイさま 母さまの びょうきをなおしてください」と
アジサイの葉をかじって リスが言いました 「ここもうるさくなってきたね 君は平気?」と
アジサイの上をくるくる飛んで トリが言いました 「アジサイ 君にこそ 翼があればいいのにね」と
アジサイの葉の下で休む カエルが言いました 「なあアジサイ 元気がないけど大丈夫か?」と
アジサイを見つめて 一人の男が言いました 「きれいなアジサイ かわいそうなアジサイ」と
ちょこんと座って キツネが言いました 「ねえアジサイ 君は どこに行ってしまったの?」と
とある雨の降る季節に ある花に寄り添う小人が言いました 「アジサイ 君はどう思う? 昔と今と先を この場所に」と
ただ小人の上には 恐ろしいほど鮮やかに 真っ赤な花が咲いていた
どこかの場所に アジサイの咲く地がありました
|