君がいた

 

君がいた。

となりにいつも、君がいた。

ときたま後ろに君がいた。

それでいつも笑ってた。

そうして僕を見守ってた。

たまに僕がへますると、泣きそうな顔で怒ってた。

僕はそのたびうなだれた。

単に怒られるのが嫌だった。

そのときはそう思ってた。

どういうわけか、君に怒られるのがとても辛かった。

君はいた。

確かに僕には見えていた。

見えていたのだ。

けれどそれだけ、見えるだけ。

触れることなど、できなかった。

それでも僕は満足で。

だから何も気にしなかった。

だから何も考えなかった。

君がいること、それが普通。

それが僕の常識だった。

君がいなくなった。

君が見えなくなった。

僕が、13歳になったとたん、君はいなくなった。

必死に君の名を呼んで、必死に君を探したけれど。。。

君はもう、いなくなった後だった。

とても悲しくて、とても心細かった。

わんわん、泣いた。みっともなく、わんわん泣いた。

そうしたら、君がまた現れるんじゃないかと期待した。

そして僕は初めて知った。

君がどれだけ、僕を守っていてくれていたのかを。

君がどれだけ、僕を支えていてくれていたのかを。

君がどれだけ、僕にとって大切なものだったのかを。

あれから数年たった今、《僕》から《俺》へと成長した。

いつも君はとなりにいた。

いつでも君は見守ってくれていた。

きっと今でも、俺を見守っていてくれているんだろう?

《俺》はもう、《僕》じゃないから君の姿は見えないが、それでも一言伝えたい。

「ありがとう」

誰もいない、となりに向かい、俺はそう言いにっこり笑った。

あの時から数年。

君が見えなくなって数年たった。

ずぅーっと言いたかったこの言葉。

「ずぅーっと僕ら、友達だ」

《俺》はその一瞬だけ《僕》になった。

「ありがとう」

一瞬。

一瞬だけど、君がいた。

一瞬だけれど、君を見た。

あのときと同じ、きれいな笑顔の君がいた。

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