黒白夢物語

 

白い闇に怯えて逃げる化け物は、独りぼっち取り残された。

 紫の蜘蛛を追って走り出した姫君は黒い光に包まれ消えた。

 暗く醜いこの世界で微笑む君は僕らの太陽。

 化け物しかいないこの街で輝くのは我らが姫君。

――君がいない。君がいない。

 我らが姫君を探しましょう。

 そういい彼らは旅立ったっきり戻ってこない。

――君がいない。君がいない。どこにもいない。

 一人、また一人……。

 紫の蜘蛛を追いかけて、黒い光のその先へ。

――君がいない。君がいない。君の居場所はここなのに。

 白い白い、純白の闇へ、探求者はおぼれ沈む。

 どこまでも果てしなく冷たく白い闇へ、消えていく。

――君がいない、君がいない。この世界にはもういない。

 我らが姫君。優しい姫君。

 僕らの太陽。僕らの希望。

――君がいない、君がいない。

 化け物だから、慣れている。

 けなされ、疎まれ、恨まれ、嫌われ。

――君がいない、君がいない。世界はこんなに暗かったのか?

 孤独には、慣れていた。

 でも、こんなことは初めてだ。

――君がいない。君がいない。これ以上、耐えられない。

 僕らの姫君、優しい姫君。

 あなたを奪われるだなんて。

 太陽を奪われるだなんて。

 それがこんなに辛いだなんて――初めてだ。

 大好きな黒い光から飛び出して、紫の蜘蛛を追いかける。

 片手に刃を、片手にパンを。

 弱さを隠す仮面を被り、当て所もなくひた走る。

 大嫌いな銀色十字架けちらして。

 恐い神様の影に怯えて。

 それでも僕は、走り続ける。

 全ては姫君――あなたのために。

 奪われたのなら奪い返してみせましょう。

 唯一つ、願うはあなたのいる日常。

 唯一つ、望むはあなたの笑顔。

 神の要塞に繋がれし、我らが姫君、僕らの太陽。

 さぁ、帰りましょう。

 鎖なんて、引きちぎって。あなたが一言、そう願えば。

 漆黒の闇の最奥で笑う君は、化け物の姫。

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